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書いちゃいました、短編小説-車道楽の悲哀-

4 発見!

それから月日は流れました。

毎日の日課のネットの中古車検索で、なんとなく探していたら、

なんと!

M3セダンのマニュアルを見つけました!!
メーカーの認定中古車が兵庫県で出ているではありませんか。
早速ディーラーに電話をして、試乗をしたいとの旨を告げると、あっさりOkが出ました。

そこからは、土曜日が待ち遠しくて仕方がありませんでした。

土曜日は仕事は半日で、ちょうど奥さんと子供たちが留守だったので、三宮までインプレッサで向かいました。

ディーラーに着くと、お目当てのM3は、ショールーム内に展示してありました。
「先日お電話したズー太郎です。M3を見せていただきに来ました。」
「はいはい、どうぞ、お好きにご覧ください」
「あの~、試乗は出来ませんか」
「はい、構いませんよ。今準備します」

えっ?改造インプレッサでやってきた、どこの馬の骨ともわからんこのおっさんに、600万のマニュアル車を試乗させてくれるのか?

ディーラーの人がM3のエンジンをかけて、チョット苦笑い。
ものすごい音なんです、エンジンスタート直後の音が。まさに爆音。もちろんノーマル車両ですが、爆音というか、迷惑音というか。

その爆音も1分チョットでおさまり、アイドリングの音が静かになったと同時に、車を外に出してくれました。

横にディーラーマンが同乗して、
「じゃあ、せっかくだから高速道路を走りましょう」
「では私のETCをいれます」
「ETCはこちらのものを使いますから結構ですよ」

おお、ここでも温かい待遇。輸入車ディーラーから今まで受けた数々の仕打ちが、いっぺんに吹っ飛び、それだけでも、天にも上る気持ちでした。

クラッチは割りと重めで、ストロークは長いですが、ミートは比較的させやすかったです。

高速道路に入ってフルスロットル、そこから一気に6速に入れると、高回転では乾いたエンジン音。そこから法定速度まで減速して、そこから6速のままアクセルを踏み込んでも、加速する加速する。

「うっひょ~、最高ですね~」
「こんなにうれしそうに運転されるお客様は久しぶりです。しかも結構踏まれますね」

試乗を終わってディーラーに戻って、見積もりとBMW特性マグカップをいただいて帰りました。

自宅に帰ったのはいいのですが、まさか兵庫までM3の試乗に行っていたとは口が裂けても言えずに、黙っていました。マグカップも見つかると困るので、とりあえず靴箱の中に隠そうと思いました。

「ただいま~」
「パパ~、おかえり~。」
子供たちが玄関まで出てきました。
「パパ、なにそれなに?食べ物?お土産?」

靴箱に隠す暇もなく粗品のマグカップが子供たちに見付かりました。

「なんや~、食べ物と違う。ママ、これなにこれ」
「いや、ママに見せたらあかんって」
「ふ~ん、ディーラーに行ってたん?で、何を見てきたん?」
「あ、いや、ちょっと」
「ちょっとやなくて、何を見てきたって?」
「はい、M3です」
「わはは、前に全く相手にされなかった車やな」

その晩は何事もなく、夜に子供たちが寝静まってから、夫婦で恒例の映画鑑賞です。

ダイニングの小さなテレビで映画を見て、眠りました。

次の日の日曜日も、いつものように子供たちを連れて遊びに出かけて、帰宅後みんなで夕食を食べていると、夜の7時頃に電話が鳴りました。

奥さんがその電話を取って、
「父さん、電話」
「ん?だれから?」
「ディーラーからやで」
「はい、もしもし、ズー太郎です」
「ズー太郎様、ご検討のほどはいかがですか。実は、週明けに車をオークションに出すことになりました。もしご検討されるなら、もう少しお待ちいたしますが、いかがなさいますか」

ディーラーが在庫車をオークションに出すというシステムがよくわかりませんが、来月に家を購入してローンを払い始めるこのタイミングで、600万円のM3を購入するというのは現実的ではないので、即座に

「ありがとうございます。流してもらって結構です」

とお返事しました。

食事が終わって子供たちが2階に上がって眠ったあと、恒例のDVD鑑賞が始まってしばらくして、
「で、さっきの電話は?」
「M3。オークションに出すけど、考えるならちょっと待ちますって電話」
「で、なんて」
「いや、インプレッサもあるし、断ったよ」
「ずっと探してた車、それでいいん?」
「なにも家を買うタイミングで車を買い替える必要もないかなって」
「でも、アレだけ欲しいって言ってたし、ずっと探してたんやろ?今のインプレッサは次いつ買い換えるん?」
「インプレッサは来年かな?」
「で、インプレッサっていくらだったっけ」
「新車で総額450万かな」
「そのビーエムはいくら?」
「570万。プラス諸経費」
「今のインプレッサの次は何を買うん?」
「またインプレッサ。次は黒かな」
「色はいいって。じゃあ、来年450万でインプレッサを買い換えること思ったら、今年それを買ってもええんとちがう?」
「えっ、M3、買ってもいいの?」
「買ってもええけど、文句言わんとしっかり働きや」
「文句は言うけど、しっかり働きます」

ということで、2年間探し続けた因縁のBMW M3セダンの右ハンドルのマニュアル車を中古で購入するに至りました。

GT-Rの開発者の水野和敏さんが、
「世間が私とポルシェが仲が悪いって言いますが、実は私、ポルシェのエンジニアと仲良しですよ」
みたいなことをおっしゃっていましたが、私の車道楽も、迫害されながらも奥さんは良き理解者だと思っています。

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