ショートショート クルマのある風景② M2 1001

その男が乗り込んだのは、M2 1001だった・・・・

のれんをくぐってこじんまりした店に入ると
カウンター席が8席

もうすでに4人が食事を始めていた。
街ですれ違ったら振り返るほどの美人の女性と
かなり年の離れた腹の出た男性の二人組が2組。

これはいわゆる、同伴出勤だな。

一番奥の隅に私は座った。
18時から始まるはずだが、すでにこの二組には
コースが提供され始めていた。

ここの懐石はうまい。

若干値は張るが、自分へのご褒美だ。
そして大将の話術も、いつも絶妙だ。

それとは対照的に、店内の女性たちは
料理にも大将の話にも、あまり興味がなさそうである。

私から10分ほど遅れて男性が入ってきた。
私の横に座ったこの男性は、同年代だろうか?
お互い軽く会釈をした。
「どうも」
「どうも」

派手さはないが、好感の持てる服装の男性である。
この男性
腕時計は、今はやりのスマートウォッチではない
(う~ん、アンティークのデイトナ・・・)

型遅れのデイトナをしている自分と対照的で
心の中で苦笑いしてしまった。
今日はステンをつけてきていたのがせめてもの救いだった

成金趣味のコンビやゴールドのデイトナをつけていなくてよかった。

食事の提供が進むにつれて店内がにぎやかになった。
この隣の男性は酒を飲んでいないが、やや言葉数が増えて
二つ三つ、大将と会話をしだした。

二組の男女は、男の方は酔いも回って
終始たわいもない会話を大声でしているが
この男性の会話は面白い。
言葉の端々に深い教養が感じられ
ウィットに富んでいる。

食事も終わって店を出た。
少し遅れて先ほどの男性も店から出てきた。

彼は私に軽く会釈をして、コインパーキングの方向に向かった。
「アンティークのデイトナの男性の愛車は何だろう?」

「初代のユーノスロードスター?」
低いエンジン音。
「いや、違うな。M2 1001だな」

出典元:pinterest

アンティークデイトナとM2 1001
あまりにも出来過ぎな組み合わせに
若干興ざめしたのは、単なる貧乏人のひがみだろう。

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ー終わりー